サンゴ辞典【ムカシサンゴ属】

[Stylocoeniella]

(スティローコェニッラ)

ムカシサンゴ科に属する国内の造礁サンゴは、ムカシサンゴ属(Stylocoeniella Yabe and Sugiyama,1935)1属のみで現在、ムカシサンゴ・ヒメムカシサンゴ・ココスムカシサンゴの3種が確認されています。

本属のサンゴは高緯度海域では大きな群体に成長する事がありますが、サンゴ礁域では殆どが数cm程度の小さな群体で、あまり目立たずサンゴ群集でも更にあまり目立たないグループです。要するに遠目は威張れるくらい地味です!

固着性群体性で、塊状・被覆状或いは細い柱状の突出部が集まった群体形を示します。サンゴ個体は円形で共骨(きょうこつ)から突出せず、2環列12枚の隔壁(かくへき)を備えて、細い柱状の軸柱があります。共骨の表面には微棘や太めの針状突起で密に覆われています。ポリプは1mm程度の大きさで12本の触手を持ち、日中もポリプを咲かせている事が多いようです。

サンゴ礁海域に生息する小型群体は、岩の小さな凹みや隠蔽(いんぺい)された場所に着生している事が多く、温帯地方では群体もかなり大きく成長し発見されやすくなります。


《和名》 ムカシサンゴ

《学名》Stylocoeniella guentheri  Bassett-Smith,1890

    スティローコェニッラ・ゲンティーリ バセットースミス,1890

《分類》刺胞動物門>花虫綱>六放サンゴ亜綱>イシサンゴ目>ムカシサンゴ亜目>ムカシサンゴ科>ムカシサンゴ属

《その他の区分》好日性サンゴ・ハードコーラル

《莢径》約1mm

《生息場所》パッチリーフやリーフ外縁・水深5~20m

《特徴》

群体の形状は塊状または被覆状で、被覆状になる群体は海藻の根部分を包み込む様に増殖するのが見つかります。本種は海藻の他、イバラカンザシやホヤ類が付着している事が多いようです。

フィリピン~日本の関東くらいまで幅広く生息します。波当たりの弱い場所では、枝状っぽくなる事もあります。突出した頭頂部には長さ約1mmくらいの長円錐形で先の尖った微細なトゲが生えています。このトゲは突出部を下るに連れ、急速に小さくなり、谷間では消失してしまいます。この特異なトゲの分布によって、容易に多種と区別出来ます。共肉が分厚く濃色な為、一見して莢を認めにくい特徴も持っています。日中もポリプを咲かせます。

触手そのものは褐色で、口盤は緑・青・黄の他、白・紫・赤・ピンク色など単色ながら様々な色彩バリエーションを持ちます。隔壁は大小6枚ずつ。本種に似たヒメムカシサンゴは、群体が小さい事・肉部の色が淡い事・トゲが太い事・隔壁は12枚ともほぼ同長である事や、大きなサンゴの下面や岩の隙間など直接に陽の当たらない場所で見つかる事などで区別出来ます。

《飼育》

◎水質

清浄な水に越した事はありませんが、要求はそんなにうるさくないです。

◎照明

明るい場所にも生息しますが、特に強い光は要求しないようです。岩の小さな凹みにも棲みますので、導入直後は灯具から離れた場所や影になるような場所(少しくらい薄暗い方が安全)からスタートし、様子を見ながら少しずつ明るい場所へと移動させ、好みの場所を見つけてあげてください。

◎水流

流れに対して垂直・水平どちらの場所にでも生息します。これも弱い水流からスタートし(但し、形状によってはデトリタスが溜まりやすくなるので、最低でもその点は注意が必要)、移動させながら好みの場所を見つけてあげてください。

◎給餌

天然海水での換水なら、特に不要かと思います。人口海水の方は、本種のようにポリプの小さなサンゴの主食は基本的にナノプラクトン(バクテリア)です。殺菌灯やUV入りの灯具を利用の方は、他のサンゴのおこぼれで充分ですので、ポンプ類の電源をOFF(数分~30分程度)にして飼育水に満遍なく漂う感じで給餌してあげてください。調理用のオタマなどでゆっくりかき混ぜてやるとやり易いですよ


=イシサンゴ目の造礁サンゴ系統樹(分類)=

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン → 動物界 → 刺胞動物(しほうどうぶつ)門 → 花虫(かちゅう)綱 → 六放(ろっぽう)サンゴ亜綱 → イシサンゴ目 →亜目から下位が下記の分類です。

【ムカシサンゴ亜目】

【ウネリサンゴ亜目】

【クサビライシ亜目】

【キクメイシ亜目】

【チョウジガイ亜目】

【ハマサンゴ亜目】

【キサンゴ亜目】

・・・と、ここまでが造礁サンゴの内、イシサンゴ目に属する種です。*はイシサンゴ目に属するものの非造礁サンゴ扱いのものですが、上記の系統樹は日本サンゴ礁学会さんが2000年に作成したもので、分子遺伝学的検討に基づく分類(2009年)とはまた微妙に相違点がありますが、今の所はーという事にしておいてください。


イシサンゴ目の造礁サンゴに続いて、造礁サンゴでありながら、イシサンゴ目以外のものも一部ありますので触れておきます。

=イシサンゴ目以外の造礁サンゴ系統樹(分類)=

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン →  動物界  →  刺胞動物(しほうどうぶつ)門 → 花虫(かちゅう)綱 → 八放(はっぽう)サンゴ亜綱 → 目から下位が下記の分類

【アオサンゴ目】

●【アオサンゴ科】 [Helloporidae](イーリュウポーリディ)
    76【アオサンゴ属】 [Heliopora](イーリュウポーラ)

【ウミヅタ目】

  ●【クダサンゴ科】 [Tubiporidea](トゥビポーリディ)
    77【クダサンゴ属】 [Tubipora](トゥビポーラ)

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン →  動物界  →  刺胞動物(しほうどうぶつ)門 → ヒドロ虫(ヒドロチュウ)綱 → 目から下位が下記の分類

【アナサンゴモドキ目】

  ●【アナサンゴモドキ科】 [Milleporidae](ミィレポーリディ)
    78【アナサンゴモドキ属】 [millepora](ミィレポーラ)

以上が現在、造礁サンゴ扱いとされている種の分類です。


更にイシサンゴ目でも無ければ造礁サンゴでも無い・・・じゃあナニ?って感じですが、大きな括りとしては「六放サンゴ亜綱」や「八放サンゴ亜綱」って云うくらいですから、サンゴはサンゴです。ご存知、表情豊かなソフトコーラルやイソギンチャクなどの仲間をご紹介します。

=イシサンゴ目以外の非造礁サンゴ(分類)=

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン →  動物界  →  刺胞動物門 → 花虫綱 → 六放サンゴ亜綱 → スナギンチャク目 → 亜目から下位が下記の分類

【短膜亜目】

  ●【Neozoanthidae科】[Neozoanthidae]

    【Neozoanthus(属)】[Neozoanthus]

  ●【イワスナギンチャク科】[Sphenopidae](スペノピディ)

    【イワスナギンチャク属】[Palythoa](ファリトゥー)
      ・タマイワスナジンチャク[Palythoa lesueuri Audouin]
      ・タチイワスナギンチャク[Palythoa yongei Carlgren,1937]
      ・イワスナギンチャク(パリトキシン猛毒を持つ)

  ●【スナギンチャク科】[Zoanthidae](ゾンティディ)

    【スナギンチャク属】[Zoanthus](ズァントゥス)
      ・キクメマメスナギンチャク[Zoanthus sansibaricus ]
      ・フジマメスナギンチャク[Zoanthus aff. vietnamensis]
      ・クロシオマメスナギンチャク[Zoanthus kuroshio]
      ・ブドウマメスナギンチャク[Zoanthus gigantus]

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン →  動物界  →  刺胞動物門 → 花虫綱 → 六放サンゴ亜綱 → イソギンチャク目 → 科から下位が下記の分類

◎【ウメボシイソギンチャク科】[Actiniidae](アークティニィデ)

  ●【Antheopsis(属)】[Antheopsis](アントゥプシース)
    ・キッカイソギンチャク[Antheopsis koseirensis sensu Uchida & Soyama, 2001]

◎【ハタゴイソギンチャク科】[Stichodactylidae](スティショーダクティーディ)

  ●【Stichodactyla(属)】[Stichodactyla](スティショーダクティラ)
    ・グビジンイソギンチャク[Stichodactyla tapetum (Hemprich & Ehrenberg in Ehrenberg,1834)]

◎【ケイトウイソギンチャク科】[Thalassianthidae](タラッスェンティディ)

  ●【Heterodactyla(属)】[Heterodactyla](エテロダクティーラ)
    ・ミノイソギンチャク[Heterodactyla hemprichii  Ehrenberg, 1834]

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン →  動物界  →  刺胞動物門 → 花虫綱 → 八放サンゴ亜綱 → ウミトサカ目 → 亜目から下位が下記の分類

【ウミトサカ亜目】

  ●【ウミトサカ科】[Alcyonacea](アルチョナチェア)

    【ウミキノコ属】[Sarcophyton](サルコーフィトゥーヌ)
        ・オオウミキノコ[Sarcophyton glaucum(Quoy&Gaimard,1833)]

  ●【ウミヅタ科】[Clavulariidae](ラボラリィデ)

    【ハナヅタ属】[Pachyclavularia](パキケルヴラーリア)
        ・ムラサキハナヅタ[Pachyclavularia violacea (Quoy & Gaimard)]

  ●【チヂミトサカ科】[Nephtheidae](ニフタィディ)

    【トゲトサカ属】[Dendronephthya](デンドロネフティーヤ)
         ・オオトゲトサカ[Dendronephthya gigantea(Verrill,1864) ]
          ・ビロードトゲトサカ[Dendronephthya habereri Kükenthal,1905]
         ・トゲトゲトサカ[Dendronephthya mucronata(Pütter,1900)]

    【ハナトサカ属】[Stereonephthya](ステレオネフティーヤ)
         ・キバナトサカ[Stereonephthya japonica Utinomi,1954]
         ・アカバナトサカ[Stereonephthya rubriflora Utinomi,1954]

  ●【ウミアザミ科】[Xeniidae](テッセニーディ)

    【ウミアザミ属】[Xenia](テッセーニア)
         ・ブルームウミアザミ[Xenia blumi Schenk,1896]

もう、お気づきの事かと思いますが、普段私たちがよく言う、ハードコーラルなのかソフトコーラルなのか、或いは好日性か陰日性などの分け方は、現在の所、生物学的な分類では「全く関係が無い」ようなのです。しかもイソギンチャク類だって「六放サンゴ亜綱」に入っちゃう。。不思議~ですよね。

納得行かない部分がいっぱいあると思うのですが、2011年7月に独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST)のマリンゲノミックスユニットがコユビミドリイシの全ゲノムを解読したそうです。当時は「世界で初めてサンゴの全ゲノム解読に成功」と大きく報道されました。また、その2年後の2013年7月には褐虫藻のゲノム解読にも成功したとか。おおぉ!!

更に、同ユニットは2014年5月にはサンゴ礁を形成する上で最も代表的なミドリイシ属の個体を的確に識別出来るDNA解析の手法を編み出したそうで、今後サンゴの分類に於いて劇的に大幅な改定が見込まれるハズ!なので発表有り次第、サンゴ辞典でも追記したいと思っています。


それでは最後に、サンゴではないけれど、タンクメイトとして欠かせないサンゴ礁の住民たちを一部ご紹介します。

=その他の海棲生物(分類)=

生物 → 真核生物(しんかくせいぶつ)ドメイン →  動物界  →  環形動物門多毛綱目から下位が下記の分類

【ケヤリムシ目】

  ●【ケヤリムシ科】[Serpulidae](セルプリディ)

    【Sabella(属)】[Sabella](サベーラ)
      ・ホンケヤリムシ[Sabella fusca Grube]

    【Sabellastarte(属)】[Sabellastarte](サベーラスターテ)
      ・インドケヤリ[Sabellastarte sanctijosephi(Gravier)]

  ●【カンザシゴカイ科】[Serpulidae](セルプリディ)

    【イバラカンザシ属】[ Spirobranchus ](スペロブランチュース)
      ・イバラカンザシ[Spirobranchus giganteus (Pallas)]
      ・オオナガレハナカンザシ[Protula magnifica]